第15話    庄内竿の保存」   平成25年06月15日  

庄内竿に道糸や針などを付け放して放置したりすると思わぬ時に竿の竹肌を傷つけたりする事がある。昔から庄内竿の保管には、通常竿棚を作りその上に載せて保管する良いとされている。特に直射日光が届かぬ、風通しの良い場所が良い。釣行の後は軽く空布巾で塩やゴミ等を良く拭き取りその後クルミ油などで磨くと良いと云われている。家が小さく四間(7.2m)と云う長竿の延竿などは置けない場合がある。そんな場合近所の大きな家の軒下を借りて置かせて貰ったりした。

庄内では昔から竿()は生きており呼吸をしていると云う考え方をしている。湿気を帯びていれば、竹は膨らむ。そんな時は、膨らんだ継竿の竹は真鍮螺旋パイプに入りきらない。また逆に乾燥が過ぎれば、今度は竹が割れてしまう。だから保管場所の選定が大事となる。

 庄内竿と他の地方の竹竿との最大の違いがある。それは良く手入れされた庄内竿は、皆百年以上の寿命を持つと云う事である。植物性の昔の和蝋燭を使い矯めては伸し、時々植物性のクルミ油で竿を拭き、出来るだけ切ったり傷を付けないで丁寧に使う事がその釣竿の寿命に繋がっていると信じられている。竿を作る時色付けと称し、囲炉裏のある部屋に煤棚を作り煙で燻す。そして水洗いしては、乾かし矯めて竿を矯正して行く。竿が完成するまでの間、ほゞ五年と云う長い時間がかかる。この工程で竹の身の中にヤニの脂が浸透して行くものと考えられる。そしてその脂は虫を寄せ付けない事にも役立っている。

庄内竿の全盛期の晩年の頃だったが、作られてから百年以上と云われた竿が現役で使われていた事を知り驚愕した事がある。植物には植物を使って手入れすると云う細やかな心遣いが、釣竿の寿命を延ばして来たのだと思う。

「竿()は生きている」これが庄内竿を名刀と同等だと愛し、愛でて大事に使って来た荘内の釣師達の心であり誇りでもある。名刀と同じように名竿も、子子孫孫に伝えたいものである。